超大型犬の仔犬を迎える為の心構え
ただ単に大型犬の仔犬がかわいいからとか、珍しい犬種だからとか、大きい犬が好きだから…などの理由だけでは、生涯飼育していく上で問題だろう。
特に大型犬の場合は、誰もが簡単に飼いきれるものではない。
自分たち家族のライフワークに合った犬種選びから始めよう。
オーナーが犬に求める本当の理由とは何か?そして、どういう形のドッグライフを夢見ているか?
さまざまな光景を思い描き、また現実の中にその様子が存在したとき果たしてどうか? 頭の中でいろいろな角度からロールプレイングしながら、絞り込んでいくと『これぞ自分たちの求める犬だ』と確証できるはず。
たとえば、ソファーでゆっくりくつろぎ、いつも家族と一緒の生活をしたい…とか、或いは、アウトドア派で、海や山などで思い切り遊びたい…とか、または、ドッグアジリティーや、犬ゾリレース、訓練競技会、ドッグショーなどにもチャレンジしたいとか…盲導犬や介助犬、聴導犬のような、自分の分身になるような関わり方をしたいとかetc。
また、超大型犬となると、小型犬に比べて寿命もそんなに長くはない。
高齢になるにつれ、健康体を維持するのが、むずかしい場合もある。
もし寝たきりの状態になったときには、看護できる体力も要求される。
生涯を通して、責任ある飼育ができる人に限り、与えられる命だと思うので、もう1度よく考えて、それぞれの犬たちの求める条件を、クリアできる努力を惜しまない人たちを、きっと犬たちも探しているはずだ。
「犬種ごとに、それぞれの目的があって作出されているので、先ず第一にその犬種の特質や習性を理解すること」、その上でだんだんと絞られて、この犬種というものにたどりついたら、情熱を持ったブリーダーを探そう。
ブームに乗ってブリーディングをしているのではなく、純粋にその犬種だけをひと筋に、飼育し、その犬種を熟知している良心的かつ友好的なブリーダーを見つけよう。
なぜなら、大型犬とひと区切りするのではなく、その犬種により、飼育方法が大きく異なるので、その犬の生涯を通して、お付き合いできるブリーダーをみつけられたら安心だからだ。
特に仔犬から幼犬、そして成犬になるまでの大切な時期に、適切なアドバイスがあるとないのでは、今後の犬生にとても大きな影響が出る場合もある。
従って、仔犬選びは、ブリーダー選びでもある。
特に初めて犬を飼う人は、マニュアル的な資料の解釈にも個人差があり、それらすべてが、自分の犬に該当するとは限らないので、犬たちが持っている内なる本能を、ボディランゲージから読み取れるよう努力したい。
フロイトのような深い洞察力がなくても、犬との暮らしの中から、新鮮な驚きと、発見を体感できるだろう。
そのときこそが、人間に飼われて、初めて「犬」になったときではないだろうか。
そして、上記にあげたブリーダーたちは、自分たちの努力から生まれた仔犬のオーナー選びにも、慎重にチェックを入れるはずだ。

仔犬を迎える前に準備しておきたいこと
前置きが長くなりましたが、私の専門はグレートピレニーズで、一般的な大型犬として共通しているのではないかと思うことと、私自身が実践していることを書いていこうと思う。
私のホームページ(www.chelsea-world.com)に一番最初に読んでいただきたいコーナーがある。
それは、【Pyreneesから人類に向けて発信す】で、もし自身が犬だったら…きっとこんなことを話したかなという私流の勝手な解釈で書きつづってある。しかし、それはすべての犬たちに共通することではないか、とも思っている。

さて、犬を迎える前の予備知識はこのくらいにして、仔犬を迎える前に準備しておきたいこととして、何をおいても先ず一番に大切なことは、

四肢を狂わせないこと。

大型犬は500〜800gで生まれた赤ちゃんが1年後には50Kg前後にまで、急激な成長をする。この大きな身体を支える四肢の狂いが一生を左右する。特に部屋の中でのフローリングなどの床材は、大事な成長期には、危険なため、カーペットを敷き詰めたい。安全な構造及び材質にして、絶対にスベらない注意が必要と思われる。

次に、

危険区域を仕切る。

大型犬の仔犬は遊びもハンパではない。段差のあるところ、たとえばソファーに乗れるようになると、1m以上先を見て、ジャンプしながら飛び降りたり、階段も上の方から平気な顔をして飛び降りたりと、予測不可能なことをするため、ゲート等を使って上手に危険区域を仕切る。キッチンも大好きで、流し台に手を置いて、何か手伝えることはないかと、かわいいポーズをしたりするが、一歩間違うと、大変で、沸騰した鍋をひっくり返したら、大ヤケドではすまされないし、留守中に間違ってガスレンジのスイッチを押してしまったりするなど、何かあってからでは、取り返しがつかなくなるので、十分に配慮をしたい。

第3に

ケージトレーニングをすること

緊急時に備えて、必ずケージトレーニングをすることをお勧めする。
例えば、入院する場合や、ホテルに泊まる場合、地震や災害に遭遇した場合など、必ず必要になってくる。もし、このトレーニングができないと、もうそれだけで犬にとっては大きなストレスになり、治せる病気も長引いたり、ホテルでは大声で泣き叫んだり、災害地ではパニックから病気になってしまう恐れもある。このトレーニングは必須である。

さあいよいよ仔犬を迎える日
どんな遠方でも、できる限り直接に迎えに行き、その胸に抱いて連れていってほしい。大切に育てられた親や兄妹たちと離ればなれになる初めての日、小さな心にも、寂しさや悲しさで、不安がいっぱいだ。
そして、こんなかわいい子を手放すブリーダーにも感謝し、大切に温かくその胸に抱いてもらいたい。
そしてその子の生家の匂いのついた、タオルやオモチャなどをもらってくると、その後の様子がだいぶ違うこともある。
家に着いたら、事前に危険区域をゲート等で仕切られた部屋に、フリーにして、その子のペースで探検させる。
優しく見守り、匂いのついたものをハウスに置いておくとよい。
トイレトレーニングも大切だが、2〜3日様子をみて、お気に入りの場所でするようになったら、そこにトイレを置く。下にビニールなどを大きめに敷いて、ハズしても決して怒らないこと。
命中したら、うーんとほめる。子育ては叱るより、ほめて育てた方が性格の良い素晴らしい犬になる。
少し慣れてきたら、家族ひとりひとりとご対面、それぞれに愛情表現をしてごあいさつ。
お水とフードは、ブリーダーのところから、いただいてきたものを。なぜなら、それぞれの犬種のプロがその犬種に合ったこだわりから見つけた良質なフードだから。
食事の時間や量や回数、与え方などは細かく聞いておくとよい。
急激な環境の変化だけでも、大きなストレスになるので、体調不良(特に便の状態に気を遣う)にならないよう、気をつける。
最初の晩と数日はたぶん家族の誰かが一緒に寝ることになる。ほとんどの仔犬は、クーンクーンと鼻を鳴らして泣くことが予想されるため、その時は優しく抱いたり、声をかけたりしながらなでてあげると安心して落ち着く。(人間は少々寝不足に注意)
そうこうしているうち、人間サイドより、仔犬の方が先に慣れてくる。ここからは、もう家族の一員になりきり、その子の犬生の幕開けとなる。どんなドラマが展開するのか…それはオーナーさんとワンが作り上げていく物語となる。

こんな行動や、こんな様子を見せられたら気をつけること、また、その方法
最後に、こんな行動や様子を見せられたら気をつけることをいくつか挙げる。
犬種により、大胆な性格を備えていたり、警戒心が強かったり、温和で従順であったり、動物に対して闘争心が強かったりと、多種多様の性格があるので、オーナーは、そういう特質を理解したい。
嗅覚や聴覚が人間の数千〜数万倍ともいわれる犬にとっては、苦手な音がある。それは、玄関のチャイム、あらゆるサイレンやかみなり、オートバイ(郵便屋さん、新聞屋さん等々)の音、トラックのドック音など挙げたらきりがない。
苦手な音に反応して吠えるなどの行為が考えられるが、これらは幼少期に上手に慣らしていけば、防げると私は考える。そのために、ここで、犬の鳴き声に耳を傾ける訓練が人間に必要になってくる。私自身は基本的に無駄吠えといわれるものはないと考えている。大きな犬が大きな声で吠え続ければ、近所迷惑にもなるので、なるべく近隣とのコミュニケーションをこわさない範囲で、犬の鳴き声を管理できるとよい。
次に、日常のグルーミングである。これは人任せにするのではなく、自分の目と手を遣い、手入れをすれば、毎日の健康チェックをしながら、犬との大切なコミュニケーションの時間となる。皮膚の異常や、耳の炎症、身体の細部にわたっての異常、たとえば、小さなキズやシコリなど、大きな病気の前兆を早期発見することも可能だ。この時間こそが最も貴重なひとときといえる。
病気を治してくれるのは医者だが、病気を予防したり、病気を早期発見するのはそれぞれのオーナーの責任ではないだろうか。物言わぬ犬たちと、いかに言葉をかわせるかは、愛情の深さに比例しているような気がしてならない
それぞれのオーナーたちに選ばれた仔犬たちの一生は、それぞれのオーナーの飼い方によって違ってくる。このかわいい子犬たちは、自分の意志でオーナーを選ぶことができない。だが、幸せになる権利は持っている。この幸せを分かち合える人に出会えることが、犬としての本領を発揮できるとき。

さあ、スタートの時だ。
そして、夢に描いた以上の暖かなぬくもりと穏やかで幸せな時間を共有できることだろう。

この原稿は某出版社に依頼されて書いたものですが、企画がボツ!になり、宙に浮いてしまったので、自身のサイトに載せました。参考にしていただければ幸いです。

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